2008年5月30日 (金)

逆 転

1 1963年<アメリカ>

監督 マーク・ロブソン

出演

ポール・ニューマン

エドワード・G・ロビンソン

エルケ・ソマー

ダイアン・ベイカー

ミシュリーヌ・プレール

ストーリー

スウェーデン、ストックホルム。ノーベル賞週間。文学賞のクレイグは物理学賞のストラトマン博士に会いとても良い印象を受けた。しかし翌日の記者会見で博士の豹変ぶりに驚いたクレイグだったが…。

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外務省からやって来たクレイグの付き人ミス・アンデルソン(エルケ・ソマー)とクレイグ(ポール・ニューマン)

この最年少でノーベル文学賞を受賞したクレイグは、女好き・酒好き・毒舌といったノーベル賞に関わる者にとっては困り者だ。ストックホルムに来たのも賞金の5万ドルが目当てだ。翌日の朝に記者会見があるのに繁華街へ繰り出そうとする。

その時ホテルのロビーで出会ったのが物理学賞受賞のストラトマン博士だ。彼は気さくで写真撮影にも快く応じる紳士だ。クレイグのファンだと言ってくれた。翌日酒を飲みながら話をすることになった。

翌日、ノーベル賞受賞者の記者会見。クレイグの前でストラトマン博士は豹変していた。前夜は米国民であることを誇るような話しぶりだったのが否定的になり、写真撮影を厳しく規制した。いぶかるクレイグ。そしてクレイグと対面して「初めまして」と言うではないか。これに博士の姪のエミリが慌てた。クレイグに取り繕ってみせるエミリ。ますます怪しく思うクレイグ…。

その時クレイグ宛に電話が入る。リンドブロムという男からストラトマン博士のことについて大事な話があるという。早速言われた住所へ急ぐクレイグ。しかしその場所に着いてみると、男は虫の息で「モース…」とつぶやき死んだ。混乱し慌てるクレイグ。警察を呼ぼうとすると、部屋のカーテンの下に男の足を見た。慌てて部屋を飛び出すクレイグ。そして彼は部屋から出てきた男をつけ始める。

あるビルにたどり着くと男を追ってクレイグは屋上へ。しかしほんの一瞬気を緩めた隙に男によってビルから突き落とされてしまう…。

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クレイグが会った本人か?ストラトマン博士(右、エドワード・G・ロビンソン)

― これはなかなかの珍品。ポール・ニューマンがノーベル賞受賞者を演じるサスペンスである。

「サスペンス」と言っても、コミカルに事は進む。そしてロマンスの要素もたっぷり。

しかしこのサスペンス映画、最初のくだりで事態が分かってしまうので、「サスペンス」としての面白みは半減である。いかにポール・ニューマン扮するクレイグがエドワード・G・ロビンソン扮するストラトマン博士本人をもがきながら探すのが焦点になっている。

化学賞受賞のマルソー夫妻の夫人(ミシュリーヌ・プレール!)が夫の愛を取り戻そうとクレイグを利用したり、ストラトマン博士の姪エミリも彼に思わせぶりな態度を取りクレイグもその気になるが鼻先で締め出されてしまい、そして外務省から派遣された付き人ミス・アンデルソンにクレイグはメロメロになってしまうという、“女好き”としてはいささか女性にやられっぱなしである。

また、心停止したストラトマン博士を蘇生させる方法はどう考えても無理でしょうよと思った次第だが、映画自体が荒唐無稽なので何故か許せちゃう。

しかし、ポール・ニューマン、エドワード・G・ロビンソン共に楽しそうに演じているのが手に取るように分かるのが嬉しいところだ。

このような「サスペンス」といっても、とってもお気楽な作品もたまには良いのである。

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2008年5月22日 (木)

ビヨンドtheシー ~夢見るように歌えば~

The4 2004年

<アメリカ・ドイツ・イギリス>

監督

ケヴィン・スペイシー

出演

ケヴィン・スペイシー/ケイト・ボスワーズ/ジョン・グッドマン/ボブ・ホプキンス/ブレンダ・ブレシン/ウィリアム・ウルリッチ/キャロライン・アーソン

ストーリー

ブロンクスの貧しい家庭に生まれ病気で心臓を悪くして15歳までしか生きられないと診断されたボビー。しかし昔歌手だった母ポリーの導きで音楽との運命的な出会いを遂げ生きる力を得る。青年となったボビーは本格的にプロの道を目指し瞬く間にトップスターの仲間入りを果たしたのだった…。

The9

   熱唱するボビー・ダーリン(ケヴィン・スペイシー)

この作品は激動の37年間を走り抜けた偉大なエンターテイナー、ボビー・ダーリンの伝記ミュージカルである。

15歳まで生きられないと宣告された歳を過ぎると彼と母親は「計画」を立てる。“フランク・シナトラ”を超えるエンターテイナーになること。

売り出す側近は初体験の新人マネージャー、新人の広告マン、アマバンドの指揮者、付き人は義兄のチャーリーだ。そして本名の“ウォールデン・ロバート・カソット”では客は呼べない。名前を「ボビー・ダーリン」に改名したとたんTVからお呼びが掛った。話題にはならなかったがレコード会社は最後のチャンスをくれた。そして20分で作ったR&Rが大ヒット。それからの彼は快進撃だ。

しかし、彼はあくまでも“シナトラ超え”にこだわった。ティーンエンジャー相手のR&R歌手ではなく大人の「スタンダード」を歌う歌手になり、ナイトクラブの最高峰「コパカバーナ」で歌うのを目標にしていた。

そんな中最愛の母ポリーが亡くなる。しかしボビーは母親の意思を継ぎ、ステージに戻って行った。

グラミー賞の新人賞に輝き、彼には怖いものはなかった。

そして彼はハリウッドに招かれ、1960年「九月になれば」で共演したアイドル女優サンドラ・ディーに一目ぼれする。2人はサンドラの母親の強い反対を押し切って結婚する。ボビー24歳、サンドラ18歳であった。

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「九月になれば」撮影中ボビーとサンドラ・ディー(ケイト・ボスワーズ)

ついに「コパカバーナ」で歌う時がやって来た。客は大盛況。ボビーの歌も素晴らしい出来だった。ついに“大スター”の仲間入りをしたのだ。

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        「コパカバーナ」で歌うボビー

今や彼は映画の演技でも脂がのっていた。「ニューマンという男」で1963年度のアカデミー助演男優賞にノミネートされた。

ボビーが歌のツアーに出るというので、この頃から2人の関係がギクシャクしてきた。サンドラは長男ドッドを産んだばかり。仕事もある。しかしボビーは同行を強要する。仕方なくボビーと行動を共にするサンドラだが、ボビーのステージが快調に進むにつれ、サンドラの酒の量も増えていく…。一方ボビーもステージが心臓に悪影響を及ぼしていた…。

The3結局アカデミー助演男優賞を獲得出来ず(受賞者は「ハッド」のメルヴィン・ダグラス)、2人の喧嘩・罵り合いは度を越していく。

ボビーは働きすぎだった。家族と過ごすことに専念した。

激動の60年代、ドッドはすくすくと成長し、国も音楽シーンも激変し、会場はクラブからスタジアムへ。ボビーは突然用無しになった。

ボビーは政治に強く係わることになる。ベトナム戦争まっただ中の時代だった。ロバート・ケネディのシンパになった。

「新聞は政治活動をしている人間の過去を暴きだす」と姉ニーナがボビーに突然告白をした。実は母親だと思っていたポリーはボビーにとって“祖母”で、自分こそが彼の“母親”だと。ボビーは衝撃を受け、怒りに駆られ、自分のレコードを叩き割り、カツラを外し、ゴールドディスクをゴミに出し、そして消えた。

質素なトレーラーハウスで1人暮らし始めた。ボブ・ディランに傾倒しフォークを書いた。髭を伸ばしヒッピーのようになった。

1968年、ロバート・ケネディが暗殺された。

ボビーは再び音楽シーンに戻る。しかし、ギター1つでフォークを歌うヒッピーは見向きもされなかった。野次で舞台を降ろされた。

ボビーは心臓の手術を受ける。成功だった。皆に誕生日を祝ってもらった。36歳まで生きられたのだ。サンドラと久々に顔を合わせるボビー。サンドラは「人は浅はかで見た目で音楽を聴くの」という言葉にボビーは雷に討たれたようにになる。そしてラスベガスへ。

当日のボビーは調子が悪かった。また心臓手術が必要になっていた。しかし、気力を振り絞りステージへ上がる。

以前の身綺麗なボビー・ダーリンが帰って来た。歌はフォークだったが、ボビーの見事なアレンジで皆は総立ち、手拍子だ。彼は見事に復活したのだ。ボビー・ダーリン、偉大なエンターテイナー。ニーナを“母親”だと公表もした。そして別れの歌を歌った。

メークを落とそう 道化師の衣装を脱ごう

カーテンは下りた 音楽は静かに鳴り

でも君たちが微笑みながら会場を後にしてくれたらうれしい

ショービジネスの世界じゃ“これで終わり後はない”と言う

僕らは一瞬を分け合ったが その一瞬は終わった

おかしな気分だ 僕らは友人として別れた

君たちの歓声や笑い声はまだ残っている

その声でくすんだ壁は揺らいだ

もう一度歌えれば また今宵は新しくなる

また君らと同じ時を過ごしたい

だけどもうカーテンは下りた

君たちの歓声や笑い声は残っている

その声でくすんだ壁は揺らいだ

人は言う このために私は生まれたと

このためだったら私は何だってする

そして思う これをやって私は救われたと…

ボビー・ダーリン、163曲を作曲し数千枚のレコード売上を記録。1973年12月20日心臓手術中に死去。享年37歳。

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― いやぁ、ケヴィン・スペイシー、一世一代の渾身の映画でした。そして徹底したエンターテイメントに酔いしれる。美声だとは思っていたが、ここまで歌が上手いとは知らなんだ。おまけにダンスまで披露してくれちゃう。動きがやや重いのは御愛嬌として、かなり頑張ってました。

ただ残念なのは、ボビー・ダーリンとサンドラ・ディーの関係。エンド・クレジットで「この映画は事実を基に製作した作品であり人物や事実や時間等に脚色や省略があるがそこに宣伝目的は一切ない」と出ているのだが、映画ではボビーとサンドラは最後まで添い遂げた印象を持つが、2人は1967年に離婚しているんですね。これは是非取り上げてもらいたかった“事実”ですね。この映画を作るにあたってサンドラ・ディーの協力は多分にあったに難くないと思われる。離婚してかえって距離が縮まる夫婦もいる。彼らはおそらくそんな関係だったのだと思うのだが、サンドラ・ディーは最後まで「未亡人」として2005年に亡くなっているが、それはどうだろう。美化しすぎの感があり。

映画自体はテンポが良くて「監督 ケヴィン・スペイシー」の実力はかなりなものかと。湿っぽい終わり方にしなかったのも良かった。実はあのステージの最後の歌から、ボビーの子役とミュージカルシーンがあり、最後はハッピーな歌で終わる。

音楽を作るのはこの上ない喜び

僕と音楽は小節の中の音符

僕が歌う限り世界はスウィング

そう 僕が歌う限り

僕が僕の歌を歌う限り!

これはもしかして映画史に残る「珍品」かもしれない。あのオスカー俳優ケヴィン・スペイシーが歌って踊る?しかし「傑作ミュージカル」でもある。ケヴィン・スペイシーはボビー・ダーリンになり切っていた。あの美声、あの(ちょっと滑稽な)ダンス…。私にはそれで充分である。

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2008年5月15日 (木)

アメリカン・ビューティー

1 1999年<アメリカ>

監督 サム・メンデス

出演 ケヴィン・スペイシー/アネット・ベニング/ソーラ・バーチ/ウェス・ベントレー/ミーナ・スヴァーリ/クリス・クーパー/ピーター・ギャラガー

ストーリー

アメリカ郊外の新興住宅地に住む広告マンのレスターは不動産ブローカーの妻キャロリンと高校生の娘ジェーンの3人暮らし。見栄っ張りな妻と反抗期にある娘とはろくに話も出来ず死んだような毎日を送っていたレスターだが、ある日変化が訪れる…。

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普通の人々?妻キャロリン(アネット・ベニング)、娘ジェーン(ソーラ・バーチ)、レスター(ケヴィン・スペイシー)

これはあと1年足らずで死ぬ運命にある男の物語である。

42歳、中年の危機にある男。妻に疲れ、娘には好かれず、会社のリストラ要員。人生の惨敗者だ。そのままでも十分死んでいる。しかし、ある出来事が彼を変える。

娘のチア・リーディングを見に行った折、レスターはある娘と目が合う。そして速効恋に落ちた。彼女の名はアンジェラ。娘ジェーンの親友だった。

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         アンジェラ(ミーナ・スヴァーリ)

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恋に落ちたレスター(ケヴィン・スペイシー)(右、アネット・ベニング)

試合の帰り、レスターはアンジェラに自己紹介し気を引こうとする。その魂胆を見抜きあきれる娘ジェーン。

それからレスターの魂は解き放たれる。幸せな妄想に浸る日々が始まる。

一方ジェーンは、隣に越してきたフィッツ家の一人息子でビデオ・マニアのリッキーの撮影の対象になり、困惑していた。

フィッツ家も威圧的な海軍大佐の父親、無口で無表情な母親、リッキーは父親に精神科通いを強要されていて幸せな家庭とは程遠い。

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         普通の人々?フィッツ家の面々

不動産ブローカーのクリスマス・パーティでレスターとキャロリンは「不動産の王様、バディ・ケーン」に近ずきになる。普段はライバル視しているのに今日のキャロリンはハンサムなバディに媚びている。疲れたレスターはバーテンのバイトをしていたリッキーからマリファナを買いハイになる。実はリッキー、ヤクの売人でもあったのだ。

バイトをサボって2人でマリファナを吸っていると、リッキーの上司がやって来て「仕事をしない者にはバイト料は出さんぞ」と脅すと、「結構。要りません。辞めます。バイト料は忘れて消えてください」と冷静に対処するのだった。その瞬間リッキーはレスターのヒーローになった。

家に帰って来たレスターを待ち構えていたのは、アンジェラだった。今日彼女が泊まると聞いて平静でいられなくなるレスター。ついにはジェーンの部屋の壁に耳をつけて2人の話を盗み聞きする始末だ。

34アンジェラが「少し筋肉を付ければ最高よ!筋肉を付けたら彼と寝るわ」と言えば、レスターは早速ガレージに直行。鉄アレイを見つけ、窓に映った自分のたるんだ全裸を確認すると、黙々とトレーニングに励むのだった。リッキーが「これぞ珍品のホームビデオ」と言って撮影しているとは全く気付かずに…。

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…夜、レスターはトイレに起きた。しかし開けたドアの中には、バスタブに浸かった女神アンジェラが待っていた。「私の体を洗って。私、とても汚れているの…」と彼女はレスターを挑発する。レスターの手がアンジェラの股間に延びる…。

…そしてレスターは幸せな自慰行為に励んでいた。

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「いやらしいっ!!」と夫を罵るキャロリン。しかしレスターも反撃だ。最初に拒んだのはキャロリンの方ではなかったか?キャロリンは離婚の話まで持ち出す。しかしレスターも抜かりがない。財産は半分彼の許へ行くことになっているのだ。完全に冷え切った夫婦が1つのベッドで寝る孤独…。

レスターのワークアウトは着々と進む。隣のゲイのカップルとジョギングしていると、フィッツ大佐はレスターまでゲイだと思ってしまったようだ。

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        フィッツ大佐(クリス・クーパー)

レスターは再びリッキーからマリファナを仕入れた。そして14年間勤めた会社を何の未練もなく辞めた。

リッキーはただただジェーンに焦点を当ててビデオを撮影していた。これが彼の恋愛表現なのだ。

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    ジェーンを撮るリッキー(ウェス・ベントレー)

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   リッキーに何かを感じたジェーン(ソーラ・バーチ)

2人は2キロの帰り道を一緒に歩いて帰ることになる。

一方、欲求不満の妻キャロリンはついにバデイとベッド・インする。彼と寝てキャロリンは欲求不満解消である。バディへののめり込みも本格的なものとなった。

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レスターはハンバーガー・ショップに再就職。何の責任も重圧もない仕事だ。

リッキーとジェーンは彼の一番“美しい”ビデオを鑑賞する。風に吹かれた枯れ葉とゴミ袋…。リッキーの“美”への強い思い入れに感銘を受けたジェーン。彼の手を取り、キスをする。2人の距離は急速に縮まっていく…。

レスターは家族にも誰にも気兼ねしなくなっていく。念願だった車を手に入れ、アンジェラと寝る日に備えてワークアウトは益々力がこもり、リッキーからマリファナを仕入れる生活。彼は以前とは見違えるように自由になっていた…。

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一方娘のジェーンは父親殺害をリッキーに依頼していた…。

― アメリカに巣食う問題を総動員したって感じのブラック・コメディでした。家庭崩壊。冷めた夫婦仲。厳しいビジネスの世界。不倫。同性愛。ティーンエイジャーの悩み。親からの自立。孤独…。これらが渾然一体となって、とてもシニカルで面白い作品に仕上がっています。

この映画の登場人物は皆孤独だ。家庭の中で死んだように過ごす男。家を売ることしか頭にない妻。父親を軽蔑し、自分のルックスに自信が持てない娘。「私は皆と違う」と言ってはばからないルックスが自慢の娘の親友。主人公宅の隣に越してきた一家…。父親は息子に対して優位に立とうとする。息子は冷めた目で父親を見、ビデオ撮影に逃避する。存在するのかも分からない妻…。

そして孤独からの解放。死んだような男が自由を手に入れる。娘の親友に恋し妄想に浸り、隣の息子が差し出したマリファナを手放せなくなり、そして会社を辞める。妻の方まで不倫一直線だ。娘は隣の息子のビデオ撮影の対象になり不気味がり困惑するが、彼の部屋へ招き入れられ「最高に美しい映像」に目が離せなくなり、彼の純粋さに心を打たれる。

そして秘密。主人公の娘の親友と寝たいという願望(娘には見破られているが)。妻の不倫。娘の親友のとるに足らない秘密(娘の手前、本人にしてみれば大きな秘密だが)。隣の息子は実はヤクの売人で、その父親の知られざる秘密…。

主人公は最後死ぬことになるのだが、それまでの経緯がスリリングでラストまで目が離せない。ラストへ向かう土砂降りの雨は芸術的で感動的でさえある。

ケヴィン・スペイシーの程よく力の抜けたさりげない演技(アカデミー主演男優賞受賞)と、アネット・ベニングの力が入りまくった演技の対比も良い。

「ユージュアル・サスペクツ」でケヴィン・スペイシーを見てから、彼のファンになってしまったのだが、彼の声はとても心地よいのだ。私は彼の声に魅了されたと言ってもいいぐらいだ。彼のナレーションを聞くだけでも価値がある一品だが、脚本も練りに練られ、撮影も素晴らしい。

皆が「美しいもの」を探す旅に出る作品でもある。

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2008年5月 5日 (月)

ソイレント・グリーン

1 1973年<アメリカ>

監督

リチャード・フライシャー

出演

チャールトン・ヘストン

エドワード・G・ロビンソン

リー・テイラー・ヤング

チャック・コナーズ

ストーリー

2022年のにニューヨーク。ここも地球上の全ての土地と同様人口過剰と食糧不足にあえいでおり、ごく一部の裕福な人を除き4000万市民の大部分は週1回配給されている食品を食べて細々と生きていた。その食料はソイレント社が海のプランクトンから作っていたが、すでにそのプランクトンも激減していた。最近、同社は「ソイレント・グリーン」という新しい製品を開発したが、品不足から配給は思うようにいかず市民の不平不満は一発触発の危機をはらんでいた。そんな中、ソイレント社の幹部の1人ウイリアム・サイモンソンが自宅で惨殺される事件が起こる。刑事ソーンはこの事件を重要と見て深く追うが…。

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護衛のタブ(チャック・コナーズ)と刑事ソーン(チャールトン・ヘストン)

動物や植物が死滅した近未来。ソーンと“警察の本”ソルが住むアパートの廊下や階段には、失業し家を失った人々が溢れている。2人が住むアパートも決して褒められたものではない。電気などは自転車漕ぎの自家発電だ。

一方、特権階級のウイリアム・サイモンソン宅には“家具”と呼ばれる女性と護衛が付いている。その2人が買い物に出た隙に、彼は何者かによって殺される。

刑事ソーンは職権乱用を平気でする男だ。警察も歓迎しているところがある。サイモンソンの酒や日用品・食料を奪い、“家具”のシャールとも愛し合う。しかし腕は確かだ。サイモンソン殺しはプロの仕業だと見破り調査をソルと共に進めることになる。

ソーンは護衛のタブを怪しんで彼のアパートに押し入る。タブにも“家具”が付き、なかなか豪勢な生活ぶりだ。1瓶150ドルのイチゴジャムを惜しげもなく舐める“家具”。特権階級の人間の護衛だけでこんな豪勢な暮らしが出来るのか?

彼はアパートに帰ると、早速サイモンソンの所から奪ってきた食料でソルが調理した食事を堪能する。バーボンで乾杯し、生野菜を食べる。最後はビーフシチューだ。心地よい驚きのソーン。久々のまともな食事に満足するソル…。

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  ソーンと“警察の本”ソル(エドワード・G・ロビンソン)

街のパトロールに出たソーンは尾行されはじめる。それはサイモンソンが「ソイレント社」の幹部の1人だったからに違いない。しかし警察ではサイモンソン殺しを暴行事件として闇に葬ろうとしていた。明らかに警察上層部からの指令だ。ソーンは食い下がる。何としてでも事件を解決すると誓った。

そんな中、サイモンソンが罪を告白した神父がタブによって殺された。神父は前夜ソーンに会っており、「彼の告白の真実は破滅を招く…」とうつろな様子で語っていたのだ。

火曜日の配給の日、「ソイレント・グリーン」を求めて人々は列をなす。品切れになると民衆は暴徒化する。その暴徒を巨大なショベル・カーが一掃していく。警官と暴徒の攻防戦。

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しかしその混乱に乗じてソーンを暗殺しようとする男がいた。ソーンは脚を撃たれたが、男はショベルカーの下敷きになって死んだ。

一方ソルは「情報交換所」へ足を運んだ。サイモンソン殺しの真相を聞くためだ。彼は衝撃的で信じがたい事実を有識者から聞く。…そして20分で人生を終わらせることが出来る「ホーム」行きを決めたのだった。自らの体を使い、ソーンが無事間に合うことを期待して…。

アパートに帰ったソーンはソルの伝言を読んで急いで「ホーム」へ向かった…。

― いやぁ怖いねぇ…。“近未来”の話ではなく“そこにある将来”の話のようだ。何気に皆(ソーンとソルを除いて)無機質で不気味。

「家具」と呼ばれる特権階級に仕える女。「本」と呼ばれる警察の情報提供者。失業者は人口の半分を占め、ホームレスが溢れている。夜間には外出禁止令が敷かれ、食事は配給制。暴徒化した人間は大型ショベルカーで始末される。

そんな市民が食料として頼っているのが、「ソイレント社」のビスケット状のもの。その中で「ソイレント・グリーン」が一番新しいく栄養も万点だ。しかし、その会社の幹部が殺されたことで、これは“暗殺”だと推理した刑事が命を狙われる…。

とにかく皆無機質。ソーンと愛し合う仲になる「家具」のシャール(段々人間らしさが出てきますが)、護衛のタブ、暗殺者、「ソイレント社」の関係者、サイモンソンから告白を受けた神父、果てはサイモンソンまで。これがじわっと怖い。

一方、「ソイレント・グリーン」の秘密を追う刑事ソーンとその「本」ソルの間には、本物の“愛”がある。ソーンがサイモンソンの許から奪った品々をソルに見せ、紙や本を渡すシーン、本物の食料で調理した食事を味わうシーンなど心に沁み入る。

そしてソルが「ホーム」へ行くシーン。ソーンがギリギリ間に合って彼と会話を交わすシーンは涙さえ誘う。ソルは自分の最期をかつての美しい世界…花が咲き乱れ、動物が躍動し、海は鼓動し、太陽は赤く沈む…で終わらせる。それを目の当たりにしたソーンは信じられずもしかし思わず感動してしまうのだ。ソルは常々言っていた。「人間はダメだが、世界は美しかった」と。

これがエドワード・G・ロビンソンの最後のシーン(遺作ですね)なので余計に涙を誘う。

ソルの意を継いだソーンが探り当てた「ソイレント・グリーン」の正体とは?戦慄ですね。

SF映画の割には小細工(特撮など)を使わず、正面から勝負してきた作品なので「古さ」は感じませんでした。それより、すぐそこにある将来像という感じがして、ただ怖い。不気味な作品。

タイトル・ロールが秀逸。

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2008年4月25日 (金)

大いなる西部

11 1958年<アメリカ>

監督

ウィリアム・ワイラー

出演

グレゴリー・ペック/ジーン・シモンズ/チャールトン・ヘストン/バール・アイヴス/チャールズ・ビックフォード/チャック・コナーズ/アルフォンソ・ベドーヤ

ストーリー

1870年代、テキサスに東部から1人の紳士ジェームズ・マッケイが地元の有力者テリル少佐の一人娘パトリシアと結婚するためやって来た。だがテリル家はパットの親友で女教師のジュリーが相続する水源地をめぐってヘネシー家と争っていた。一方テリル家の牧童頭スティーヴはパトリシアを密かに愛しジェームズを疎ましく思っていた。非暴力・平和主義のジェームズはこれら全てを合法的に解決しようとするが…。

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婚約したジェームズ・マッケイ(グレゴリー・ペック)と、パトリシア(キャロル・ベイカー)、テリル少佐(中央、チャールズ・ビックフォード)

なにしろこのジェームズ・マッケイという男、徹底した平和主義者だ。テキサスに着いてそうそう、テリル家と反目するヘネシー家の長男バック率いるならず者に、いいようにもてあそばれても手も出そうとしない。バックたちはマッケイを臆病者として町で散々言いふらす始末だ。

そして、テリル家では必ず通らなければいけない儀式、暴れ馬の“サンダー”にも乗ろうとしない。西部で生まれ育ったパトリシアにはそれが「男らしくない」と感じてしまい、不満である。

テリル少佐が牧童たちを連れて、ヘネシー家の村を襲撃しに行くという。自分のせいで何もこんなことをすることはないと訴えるマッケイだが、テリル少佐は面目を潰されたのだから当然の行為だと譲らず、村を襲い、その足で町へ行きヘネシー家の一味をリンチにかけた。その間バックは見つからぬよう隠れていた…。

3

  テリル家の牧童頭スティーヴ(チャールトン・ヘストン)

なすすべもなくテリル家に留まっていたマッケイだが、暴れ馬“サンダー”に乗る決心をした。ただし、皆には内緒で。知っているのは馬を世話しているラモンだけだ。何度も振り落とされたが、サンダーを攻略した。

…その夜、テリル家ではマッケイとパットの婚約パーティが開かれていた。華やかに着飾った紳士淑女。踊るマッケイとパット…。その時、窓から1人の男が入って来た。ヘネシー家の主、ルーファス・ヘネシーである。

1

      ルーファス・ヘネシー(バール・アイヴス)

ヘネシーとテリル少佐は30年以上も遺恨の仲だ。彼は“ビック・マディ”と言う、牧場を経営しているものには大事な水源地を独り占めにしようとしている少佐を責めた。今度村を襲ったらただではおかないと脅した。そして家を後にした…。

…翌朝、マッケイは“ビック・マディ”目指して1人で旅立った。東部の男が無茶をする、道に迷うに違いない…少佐は牧童たちをマッケイの捜索にあてた。マッケイが分からなくなるパット。スティーブは彼を「とんだ恥さらしだ」と一蹴した。パットが彼をぶつと、スティーヴは激しくキスをした…。抵抗するパット。激しく求めるスティーヴ…。

マッケイは朽ちた邸宅に行き当たる。それは“ビック・マディ”の持ち主、ジュリーの祖父の家だった。ジュリーも偶然この地にいたので、“ビッグ・マディ”を案内してもらうマッケイ。

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              “ビッグ・マディ” 

マッケイはジュリーに“ビッグ・マディ”を買いたいと申し出る。テリル家にもヘネシー家にも水を供給する。そうすれば平和が保てる。パットにも結婚の贈り物になる。…ジュリーはマッケイに“ビッグ・マディ”を売った…。

スティーヴたちはマッケイを捜索したが全く見つからなかった。夜を徹しての捜索だ。しかし、そこにマッケイが通りがかる。彼の行動を激しく非難するスティーヴ。

家に帰り着くと、スティーヴがマッケイに喧嘩を売って来た。しかし、挑発には乗らないマッケイ。やはりこの男は“臆病者”なのだと皆が思った。パットも思った…。マッケイは明日の朝、町に移るという。もうパットはマッケイに愛情を感じなくなっていた…。

…夜中、マッケイはスティーヴの許を訪れる。マッケイはスティーヴが売った喧嘩を受けたのだ。ただし知るのはこの2人のみ。壮絶な殴り合いは果てしなく延々と続いた…。

朝、マッケイはテリル家を後にした…。

スティーヴはテリル少佐に命令され、気が進まない中でヘネシー家の牛を水源地から追い散らしていた…。

ヘネシー家ではルーファスがそれを聞いて怒り心頭だ。ルーファスはバックにジュリーを連れて来いと命令する。お前に夢中なら来るはずだと言う。実はバックはジュリーに夢中で、父親にはジュリーの方が彼に夢中だと偽って報告していたのだ…。ルーファスももちろん“ビッグ・マディ”を独り占めする気でいて、ジュリーに土地の権利書にサインさせようという腹なのだ。

…町ではマッケイとジュリーが会っていた。

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      ジュリー(ジーン・シモンズ)と、マッケイ

マッケイは、“ビック・マディ”はジュリーの贈り物にするのをやめたと言った。ジュリーは説得を試みるが、マッケイは根は深い所にあるのだと言う。そして改めて“ビッグ・マディ”を登記したいという。ジュリーの許可を貰って早速登記に取り掛かるマッケイ。

そこに、パットがやって来た。彼女はジュリーからマッケイが“サンダー”に乗ったと、“ビック・マディ”を結婚の贈り物として買ったことを知らされていた。「結婚は出来ない」と断るマッケイに関係修復を迫るパット。「あなたを愛しているの。パパに牧場の話をするわ。“ビツグ・マディ”のことでパパは大きな計画があるの…」うんざりするマッケイ。少佐のための“ビッグ・マディ”ではない。ヘネシー家にも水を分ける…。激しく罵るパット。…それでパットとは終わった。

一方ジュリーは、パットにさらわれヘネシー家へと急がされていた…。

― う~ん…、これほど悩ましい映画とは…。ちょっと困ったぞ。

そもそもこの作品は「西部劇」と言えるのか?それとも「西部劇」の範疇には入りきらないほど壮大な物語なのか?

人間関係は、流石の巨匠ウィリアム・ワイラー監督らしく上手く描けている。

“ビッグ・マディ”をめぐる2家族の30年間の遺恨。いかにも東部の紳士的な主人公。その主人公の婚約者に密かに恋心を抱く牧童頭。主人公に降りかかる“西部”の洗礼。親離れ出来ない婚約者。親の頭を悩ませる何事も出来そこないの長男。唯1人主人公の意を汲んでくれる“ビッグ・マディ”の持ち主…。主人公は誰とも戦わずに密かに全てを解決しようとする…。

この、“誰とも戦わない”主人公が悩みの種なのだ。

徹底した平和主義で秘密主義でもある。皆の前で笑い者にならなければいけない儀式、暴れ馬の“サンダー”には1人で密かに攻略してしまうし、牧童頭のスティーヴが売って来た喧嘩も皆が寝静まった夜中に密かに行われる。「これで何が証明できたか?」と言うマッケイだが、西部の男はそういうことを人前でファイトし、「男らしさ」を証明しなければいけないのではないのかな?主人公マッケイは東部とは全く異なる土地「西部」に来ても、「男らしさ」は必然な事ではないと思っている。

これが今までの「西部劇」の主人公像とは全く異なるところなんですよねぇ…。それがこれからの「西部劇」の主人公像と言ってしまえばそれまでなんですが、どうも納得がいかない。正統派の西部劇ではないですよね。全く戦わない男が主人公?

そして、「なにもそこまで…」と思う演出。ロング・ショットが多発しすぎなのよ。「西部」の広大さ・雄大さをシネスコの画面にここぞとばかりに出そうという意思は汲み取れましたが、「なにもそこまで…」と感じるショットが多かった。人間が豆粒なんですもん。その豆粒は、本当にグレゴリー・ペックなのかい?チャールトン・ヘストンなのかい?と訝しく思ったもんです。

あと、馬が去りゆくシーンも多かった。これも本当に役者が馬に乗っているのか怪しいシーンである。女性陣の乗馬シーンはスタントだったし。

“手造り”の「西部劇」を遥か彼方に追いやった映画でもありますね。

ストーリー上では、バール・アイヴス演じるヘネシー家の当主がもうけ役でしたね。息子が野蛮でいやらしい男なので、親もそうかと思いきや…実は真っ当な常識人。しかし、“ビッグ・マディ”から水が供給されてもテリル少佐とはそれは長い遺恨の仲。最後はこれぞ「西部の男」っぷりを見せてくれます。

チャールトン・ヘストンはまだ若いなぁ…という印象。「十戒」でモーゼやった後なんですがね、グレゴリー・ペックの域までには届かず。この後再びワイラー監督と組んで、「ベン・ハー」で主演男優賞を獲得するんですね。(主演男優賞はグレゴリー・ペックより早く獲得)この人は“助演”ではなく、あくまでも“主演”で映える人なんだなぁ…と思った次第。

この作品を「西部劇」として期待して観たら、拍子ぬけするかもしれません。単に物語の舞台が「西部」にすぎないと感じました。

3時間弱、長いぞ。

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2008年4月19日 (土)

ガンファイターの最後

2 1969年<アメリカ>

監督 アレン・スミシー

出演

リチャード・ウィドマーク

レナ・ホーン

キャロル・オコナー

マイケル・マクグリーヴィ

ストーリー

テキサスのとある町で住人に頼まれて保安官を務めるフランク・パッチは古き良き時代の古風な保安官だ。しかし、近代化の道を進もうとする町の実力者たちは次第に彼の存在を煙たがるようになっていく…。

※ ネタバレです。

3

 古き良き時代の保安官パッチ(左、リチャード・ウィドマーク)

パッチは町のパトロール中、彼に挑んできたルークという男を撃ち殺す。正当防衛とはいえ、町の近代化を進める実力者たちは気に入らない。彼らはパッチを何とかして町から追放したいのだ。未亡人からも、「あなたが憎い」と言われる始末だ。

パッチはこの町に自分の居場所が無くなってきているのを感じている。恋人の娼館のマダム、クレアからも「仕事を辞めて一緒に町を出ましょう」と懇願されている。

この町に頑なに留まれば、殺されるのは分かっている。パッチには恐怖だ。この町を統治するのも疲れた。しかしパッチは留まり続けるのだ。

…パッチを慕い、いつも一緒にいる新聞社に勤める少年ダンと川釣りの途中、町長と町の実力者たちが、パッチを解雇する旨の書類を持ってやって来た。しかし、パッチは破り捨て、彼の解雇の合法性をまくしたてる新聞社の社長オクスレーを殴りつけ、去って行った…。

町に戻ると、オクスレーがライフルを持ってうろついているのをダンが見つける。彼は酒場の使われていない部屋へ入り、窓を開け、ライフルを構えた。ダンはパッチにこのことを伝えた。パッチは彼のいる位置を確認した。

窓の下に立つパッチ。銃を構え、彼を狙うオクスレー…。パッチが部屋へ押し入ろうすると、銃声が響いた。オクスレーは自殺して果てた。

逆恨みだか、今度は彼の息子ウィルがパッチの命を狙おうとする…。

…群保安官のルーが町の実力者たちに招かれてやって来た。パッチをルーク殺しで逮捕して裁判にかけるというのだ。ルーは早速パッチの所へ説得しに出向く。

実はルーはメキシコ人で、パッチの強い後押しがあったおかげで、郡保安官になれたのだった。ルーは「殺される前に保安官を辞めてくれ」と懇願する。聞かないパッチ。ルーを殴って追い出した。

その場にいたダンは、「また暴力でねじ伏せればいいさ」とパッチを批判した。彼を殴るパッチ。「恐怖でしか町を統治できない…」と唸るように言うしかなかった。そして、「神よ、私に何が?」とつぶやいた…。

…町の事を何でも知っているレスターの酒場で、ウィルは彼から1人でパッチを殺すのは断念するよう説得していた。実はレスターもパッチに恨みを抱いていて、ウィルの激情に便乗し、パッチを殺す気でいたのだ。

町の実力者たちの集まりで、ついにパッチを殺すことが決定した。ルーが「大したもんだ。これが文明か…」とつぶやく。

ルーは再びパッチの許へ行き、「この町を出る、一緒に行こう。頼む」と言うが、パッチは断る。そしてルーは去って行った…。

…クレアの許を訪れたパッチ。唐突に「結婚しよう」とプロポーズする。クレアは受け入れ、2人は夫婦になった。

その頃、レスターとウィルはパッチ襲撃の準備に余念がなかった。

…式を挙げ、牧師の家を出た2人は別れた。そしてウィルはクレアを人質に取る。何かを察知したパッチは町を慎重に歩いてきた。するとウィルがパッチに向かって銃を撃った。クレアの許へ駆けつけるパッチ。パッチはウィルを撃った。瀕死のウィルは父親の自殺の真相を知りたがった。真相を話すパッチ。しかしウィルは、「皆の言うとおりあんたは勝手だよ…」と言う。「誰かがやらねばならん。たとえそれが間違っていたとしても…」と言ったところでウィルは息を引き取った…。

レスターによるパッチ襲撃が始まった。激しい銃撃戦。パッチは肩に足に銃撃を受けながらも戦う。しかし確実にレスターを追い詰めていくパッチ。駅近くの牛の飼育場でレスターを投げ縄で捕まえ、彼をひきずり留置所に入れる。

しかしその頃、町の実力者たちに雇われたガンマンたちが屋根の上からパッチを狙っていた。それを承知で彼は教会へと向かう。ルークを見送るためだ。思わず十字架のイエス像に目が行くパッチ…。

教会から出てきたパッチは思わず空を見上げる。最後だ。町長の合図で方々から拳銃が炸裂する。なすすべもなくハチの巣になりパッチは死んだ…。

…そして夜、棺と一緒にクレアは汽車に乗り込んだ…。

― 近代化が進む町では滅びゆく運命にあった男、フランク・パッチ。彼は「古い時代」の遺物であり、町に長く留まりすぎた。

彼はいずれ追放されるか殺されるか知っていたはずなのに、頑なに町に固執する。町を出るのは棺でというのはなんとも皮肉な話だ。

そんな“老いゆく頑固な保安官”をリチャード・ウィドマークが好演。脇役が頑張ろうがあがこうが、これは完全に「リチャード・ウィドマーク」の映画だ。

さて、「アレン・スミシー」なる監督、聞いたことがない…とお思いの方も多いだろう。

これは最初ドン・シーゲルが推薦した監督、ロバート・トッテンがメガホンを取っていたのだが、リチャード・ウィドマークと意見の対立が激化。3/2を撮り終えたところで、結局ドン・シーゲルと交代。しかし、完成した映画に2人ともクレジットを拒んだため、全米監督協会が架空名義の「アレン・スミシー」という名前を用いたそうです。

「アレン・スミシー」という監督名は、その後何作か“いわくつきの作品”使われるようになるんですな。

編集し完成した映画は、ロバート・トッテンとドン・シーゲルが撮った割合がちょうど半分の割合だったようですが、社会や組織に迎合しないアウトロー的性格・己の暴力的衝動を抑えきれないアンチ・ヒーロー像・己の手で秩序を築き上げたのに町には味方よりも圧倒的に敵が多いという主人公の姿は、「ダーティ・ハリー」を感じさせ、完全にドン・シーゲルのものである。

そして、最後の壮絶だがあっけない主人公の“死”は、後のジョン・ウェインの遺作「ラスト・シューティスト」に受け継がれていくのだ。

リチャード・ウィドマークとドン・シーゲルは、67年の「刑事マディガン」でもコンビを組んでいる。これは「死の接吻」以来のリチャード・ウィドマークの当たり役でもあった。(この映画でも相当2人はやりあったそうだが…)

なんだかんだ言っても、結局2人は相性が良いのである。

曲者俳優、リチャード・ウィドマークよ、永遠に!!

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2008年4月12日 (土)

ワーロック

14 1959年<アメリカ>

監督

エドワード・ドミトリク

出演

リチャード・ウィドマーク

ヘンリー・フォンダ

アンソニー・クイン

ドロシー・マローン

ドロレス・マイケルズ

ストーリー

ワーロックの町では、マキューンの経営するサン・パブロ牧場のならず者たちが暴れまわっていた。部下の1人は散髪屋に難癖をつけ殺した。翌日、町の住人は集会を開き、町を自衛するために凄腕保安官クレイを呼ぶことにした。マキューンの部下の1人、ジョニーは自分たちの行為を恥じており、町に残ることしたが…。

19

やって来た救世主クレイ(ヘンリー・フォンダ)と、相棒の賭博屋モーガン(アンソニー・クイン)

早速マキューン一味がモーガンの経営する酒場「フランス宮殿」へやって来た。クレイと対峙する腹積もりだ。早速腹心の部下ゲートがクレイに難癖をつけるが、彼は軽くやり過ごしマキューンに宣言した。

「私は町に雇われた保安官だ。2つの規則を定め徹底的に守る。第1に、撃ち合いを始めた者は私が殺す。第2は、騒ぎを起こした者は町から追放する。これは法として成立しているから絶対に従え。追放者が町へ入れば許さない。」と。

ジョニーの弟ビリーはいきり立つが、マキューン一味はおとなしく帰っていった。ジョニーは去りがたい衝動を抑えつつ、最後に続いた…。

外へ出ると、ジョニーと一味のいざこざが始まる。そして皆が帰るとき、彼は決心した。この町に残ると。そしてマキューン一味から離れた…。

…ワーロックの町へ向かう馬車がマキューン一味の3人に襲われた。男が馬車から出てくる。しかし、その男を狙撃したのはモーガンだった…。困惑する一味だが、金は奪って逃げた。馬車はワーロック目指して走り去った。

馬車が町に着く。出てきた女はクレイが知っている女だった。クレイに挑んだ婚約者を殺されたリリーという女だ。

クレイ達が馬車を襲った3人を捕まえてワーロックまで戻り、彼らを裁判にかけるため一時牢に入れた。その中にはジョニーの弟ビリーもいた。町の住民は興奮してリンチにかけようとする。しかしクレイが、集団リンチは最も卑劣な行為だと諫め、皆を帰した。

翌朝、裁判のため群保安官がやって来た。皆がこの町に群保安官補も置かないと文句を言うと、募集中だという。そこでジョニーが立候補した。彼は正式に群保安官補に任命された。

     群保安官補に立候補するジョニー

       (馬の前、リチャード・ウィドマーク)

7

ジョニーはクレイと違って、この町に秩序を取り戻すのは“対話”だと思っている。必要とあらば彼と対峙する気でいるのだ。

                 リリー(ドロシー・マローン)とジョニー

6リリーはそんなジョニーをクレイの復讐に利用しようと考える。家に招待し、料理を振る舞う。しかし、色々と話していくうちに彼女はジョニーに惹かれ始める…。

一方クレイは丘で早打ちの修練中、数少ないクライ擁立反対派だったジェシーという女性に出会う。

  ジェシー(ドロシー・マイケルズ)

16彼女は、クレイがマキューン一味を銃も使わずに町から撤退させたことで彼を尊敬し惹かれていたのだ。

そしてジェシーはクレイに会いに来たのだった。“愛”を期待して。それは裏切られなかった。クレイもジェシーに好意を寄せていた。熱い接吻を交わす2人…。

ジェシーの家で食事中、モーガンがクレイを呼びにきた。町を追放された3人が待っていると知らせて来た。決着がつき次第この町を去ろうと言うモーガンとジェシーと結婚してこの町に留まると言うクレイ…。

…3人がクレイの前に姿を見せた。ジョニーはクレイに弟と話させてくれと頼む。聞き入れられた。しかし、ビリーは聞く耳を持たない。

17

クレイは3人ににじり寄りながら、おとなしく町を出ろと警告する。しかしビリーはクレイに銃を抜けといきがる。物陰からクレイを狙っていた第4の男がモーガンに撃たれ、それをきっかけに銃撃が響いた。ビリーはクレイに殺された…。

       説得がむなしく終わったジョニー

18

ジョニーはこれ以上クレイの手によって死者を出さないよう、単身マキューンの許へ乗り込み、話し合いによって決着を着けようとするが…。

5

― いやいや、曲者役者3人(リチャード・ウィドマーク、ヘンリー・フォンダ、アンソニー・クイン)の豪華共演ですねぇ。(ヘンリー・フォンダはもうこの頃から「正統派」とは言えなくなっていくんですな…)

ストーリーも良く出来てます。「悪」の集団マキューン一味が町を席巻する。なすすべもない住人。凄腕の雇われ保安官とその相棒の賭博屋の奇妙な友情と愛憎。「悪」の側にいた男が“法の番人”になるという奇抜さ。女に対する愛の形…。

まず、主役の一端を担うリチャード・ウィドマーク。

一時は「悪」に憧れた男だったが、ある事件をきっかけに、「悪」であることを嫌うようになり、ついには「善」の象徴でもある群保安官補になる。「悪」との対峙はあくまでも“対話第一”で、説得出来なかったときは町の住人が立ち上がってくれることを願っているという、実はとてもクリーンな男であったという、なかなか難しい役をさりげなく熱演。うん、熱演なんだけど、熱演と見せないそのさりげなさが渋い。

もう一端のヘンリー・フォンダ。

相棒モーガンに豪華な生活を提供され、点々と「悪」に苦しめられている町へ保安官へと高給で雇われる男。優秀な保安官の印、「黄金銃」を持つ男でもある。そして自分の立場を良くわきまえている男。一つの町に留まるのは、町に平和が戻るまで。町に不要になった時はモーガンと共に去るのみ。しかし今回の町では愛する女が出来、一つ町に留まろうとするが…という、「悪」との対峙はあくまでも“銃”という男を難なくこなすこの演技力の凄さ。この人、上手いとしか形容が出来ない。

たぶん一番難役であっただろうアンソニー・クイン。

唯1人、人間扱いをしてくれたクレイにただひたすら尽くす賭博屋のモーガン。実はリリーに恋心を寄せながら、クレイを邪魔する者を許さず、クレイを英雄にするためには手段を選ばない男。そんな役を余裕たっぷりに演じる。憎いねぇ。

リリーやジェシー、町の人々、マキューン一味の書き込みも巧みだ。ストーリー運びも最後まで飽きさせない。

ひたすらカッコいいラストのヘンリー・フォンダにリチャード・ウィドマークはちょっと喰われた感があるが、監督の力量に違わない出来の映画だと思う。

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2008年4月 9日 (水)

長い船団

7 1964年<アメリカ>

監督 

ジャック・カーディフ

出演

リチャード・ウィドマーク

シドニー・ポワチエ

ラス・タンブリン

ロザーナ・スキャフィーノ

ストーリー

紀元10世紀。ムーア人の要塞。船が座礁してこの地に流れ着いたバイキングのロルフは、「黄金の鐘」の伝説を皆に話し、故郷へ帰る金を稼いでいた。一方、族長のエル・マンスーはその伝説を信じており、ロルフを捕え「黄金の鐘」のある場所を聞き出そうとするが…。

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 「黄金の鐘」の伝説を語るロルフ(リチャード・ウィドマーク)

しかしこのロルフという男、口八丁。おまけに腕がたつバイキングだ。エル・マンスー激しい追及をかわし、部下を軽くやりこめ、海へ飛び込んでムーア人の元をおさらば。命からがら故郷ノルウェーに帰り着く。

   エル・マンスーはソウルフル(シドニー・ポワチエ)

8

故郷では、彼の父親が造った王のための弔い用の船が皆に披露されていた。

10

実はロルフは、ビサンチンで修道僧に助けられ修道院で生命を回復したのだった。その修道院のモザイク画に「黄金の鐘」が造られた経緯が書いてあったのだ。それに子供の頃エジプト人の語り部から、「黄金の鐘」の伝説をよく聞かされていた…。

エル・マンスーと同じく「黄金の鐘」の存在を信じて疑わない彼は、秘かに船員を募り王の娘を誘拐し船を奪い再び航海に出る。

途中、確かに「黄金の鐘」の音を聞き、場所を突き止めた。しかしその直後船はうず潮に巻き込まれ、またも座礁。行き着いた先は、エル・マンスーのいるムーア人の砦だった…。

船員も含め、ロルフは再び囚われの身になってしまう…。

1船員の裏切りから、「黄金の鐘」の場所がエル・マンスーに知られてしまう。しかし、ムーア人は砂漠の民族。海には詳しくない。ロルフは船員の命を第一に考え、船を修理し、エル・マンスーに従い「黄金の鐘」の場所へと向かった…。

― 「長い船団」という地味なタイトルとは裏腹に、なかなかの歴史アクション娯楽作でした。

「黄金の鐘」をめぐるムーア人のエル・マンスーとバイキングのロルフの物語ですな。

「黄金の鐘」はロルフによって見つけ出されるのか?エル・マンスーとロルフの関係の行方は?

しかしシドニー・ポワチエは、髭をたくわえ、髪型を変えると、あ~らなんてソウルフル。時代(60年代)に迎合したわけではないんでしょうが、“モータウン・レコード”からデビューできそうです。

彼にしては珍しい“敵役”でもありますね。

対するリチャード・ウィドマークは、口八丁で腕っぷしが強いロルフを楽しそうに演じておりました。

彼もチラリと胸毛を見せ、前半に限るがおみ足を大胆に見せて、セクシーさをアピール。女性ファンにはたまらない映画でしょう。

バイキングによるエル・マンスーのハーレム乱入事件あり、エル・マンスーの妻がロルフに色仕掛けあり、チャンバラありの、気張らずに楽しく観れる映画であることは間違いないでしょう。

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2008年4月 6日 (日)

チャールトン・ヘストンさん死去

ハリウッドの“大作”なら、この人という俳優、チャールトン・ヘストンさんが、4月5日にお亡くなりになりました。

享年84歳。

Photo

セシル・B・デミル監督の「地上最大のショウ」「十戒」や、アカデミー主演男優賞を獲得した「ベン・ハー」、SF大作「猿の惑星」、「エアポート'75」など、出演した大作はどれも大当たり。

全米ライフル協会の会長でもありましたが、2002年アルツハイマー病に侵されていることを公表。

ご冥福をお祈りいたします。

(ここのところ、訃報の記事ばかりで残念でなりません…。)

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2008年4月 2日 (水)

ジュールズ・ダッシン監督死去

「日曜はダメよ」や「トプカピ」で有名な監督、ジュールズ・ダッシンさんが、3月31日にお亡くなりになりました。

享年97歳。