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2008年5月

2008年5月30日

逆 転

1 1963年<アメリカ>

監督 マーク・ロブソン

出演

ポール・ニューマン

エドワード・G・ロビンソン

エルケ・ソマー

ダイアン・ベイカー

ミシュリーヌ・プレール

ストーリー

スウェーデン、ストックホルム。ノーベル賞週間。文学賞のクレイグは物理学賞のストラトマン博士に会いとても良い印象を受けた。しかし翌日の記者会見で博士の豹変ぶりに驚いたクレイグだったが…。

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外務省からやって来たクレイグの付き人ミス・アンデルソン(エルケ・ソマー)とクレイグ(ポール・ニューマン)

この最年少でノーベル文学賞を受賞したクレイグは、女好き・酒好き・毒舌といったノーベル賞に関わる者にとっては困り者だ。ストックホルムに来たのも賞金の5万ドルが目当てだ。翌日の朝に記者会見があるのに繁華街へ繰り出そうとする。

その時ホテルのロビーで出会ったのが物理学賞受賞のストラトマン博士だ。彼は気さくで写真撮影にも快く応じる紳士だ。クレイグのファンだと言ってくれた。翌日酒を飲みながら話をすることになった。

翌日、ノーベル賞受賞者の記者会見。クレイグの前でストラトマン博士は豹変していた。前夜は米国民であることを誇るような話しぶりだったのが否定的になり、写真撮影を厳しく規制した。いぶかるクレイグ。そしてクレイグと対面して「初めまして」と言うではないか。これに博士の姪のエミリが慌てた。クレイグに取り繕ってみせるエミリ。ますます怪しく思うクレイグ…。

その時クレイグ宛に電話が入る。リンドブロムという男からストラトマン博士のことについて大事な話があるという。早速言われた住所へ急ぐクレイグ。しかしその場所に着いてみると、男は虫の息で「モース…」とつぶやき死んだ。混乱し慌てるクレイグ。警察を呼ぼうとすると、部屋のカーテンの下に男の足を見た。慌てて部屋を飛び出すクレイグ。そして彼は部屋から出てきた男をつけ始める。

あるビルにたどり着くと男を追ってクレイグは屋上へ。しかしほんの一瞬気を緩めた隙に男によってビルから突き落とされてしまう…。

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クレイグが会った本人か?ストラトマン博士(右、エドワード・G・ロビンソン)

― これはなかなかの珍品。ポール・ニューマンがノーベル賞受賞者を演じるサスペンスである。

「サスペンス」と言っても、コミカルに事は進む。そしてロマンスの要素もたっぷり。

しかしこのサスペンス映画、最初のくだりで事態が分かってしまうので、「サスペンス」としての面白みは半減である。いかにポール・ニューマン扮するクレイグがエドワード・G・ロビンソン扮するストラトマン博士本人をもがきながら探すのが焦点になっている。

化学賞受賞のマルソー夫妻の夫人(ミシュリーヌ・プレール!)が夫の愛を取り戻そうとクレイグを利用したり、ストラトマン博士の姪エミリも彼に思わせぶりな態度を取りクレイグもその気になるが鼻先で締め出されてしまい、そして外務省から派遣された付き人ミス・アンデルソンにクレイグはメロメロになってしまうという、“女好き”としてはいささか女性にやられっぱなしである。

また、心停止したストラトマン博士を蘇生させる方法はどう考えても無理でしょうよと思った次第だが、映画自体が荒唐無稽なので何故か許せちゃう。

しかし、ポール・ニューマン、エドワード・G・ロビンソン共に楽しそうに演じているのが手に取るように分かるのが嬉しいところだ。

このような「サスペンス」といっても、とってもお気楽な作品もたまには良いのである。

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2008年5月22日

ビヨンドtheシー ~夢見るように歌えば~

The4 2004年

<アメリカ・ドイツ・イギリス>

監督

ケヴィン・スペイシー

出演

ケヴィン・スペイシー/ケイト・ボスワーズ/ジョン・グッドマン/ボブ・ホプキンス/ブレンダ・ブレシン/ウィリアム・ウルリッチ/キャロライン・アーソン

ストーリー

ブロンクスの貧しい家庭に生まれ病気で心臓を悪くして15歳までしか生きられないと診断されたボビー。しかし昔歌手だった母ポリーの導きで音楽との運命的な出会いを遂げ生きる力を得る。青年となったボビーは本格的にプロの道を目指し瞬く間にトップスターの仲間入りを果たしたのだった…。

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   熱唱するボビー・ダーリン(ケヴィン・スペイシー)

この作品は激動の37年間を走り抜けた偉大なエンターテイナー、ボビー・ダーリンの伝記ミュージカルである。

15歳まで生きられないと宣告された歳を過ぎると彼と母親は「計画」を立てる。“フランク・シナトラ”を超えるエンターテイナーになること。

売り出す側近は初体験の新人マネージャー、新人の広告マン、アマバンドの指揮者、付き人は義兄のチャーリーだ。そして本名の“ウォールデン・ロバート・カソット”では客は呼べない。名前を「ボビー・ダーリン」に改名したとたんTVからお呼びが掛った。話題にはならなかったがレコード会社は最後のチャンスをくれた。そして20分で作ったR&Rが大ヒット。それからの彼は快進撃だ。

しかし、彼はあくまでも“シナトラ超え”にこだわった。ティーンエンジャー相手のR&R歌手ではなく大人の「スタンダード」を歌う歌手になり、ナイトクラブの最高峰「コパカバーナ」で歌うのを目標にしていた。

そんな中最愛の母ポリーが亡くなる。しかしボビーは母親の意思を継ぎ、ステージに戻って行った。

グラミー賞の新人賞に輝き、彼には怖いものはなかった。

そして彼はハリウッドに招かれ、1960年「九月になれば」で共演したアイドル女優サンドラ・ディーに一目ぼれする。2人はサンドラの母親の強い反対を押し切って結婚する。ボビー24歳、サンドラ18歳であった。

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「九月になれば」撮影中ボビーとサンドラ・ディー(ケイト・ボスワーズ)

ついに「コパカバーナ」で歌う時がやって来た。客は大盛況。ボビーの歌も素晴らしい出来だった。ついに“大スター”の仲間入りをしたのだ。

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        「コパカバーナ」で歌うボビー

今や彼は映画の演技でも脂がのっていた。「ニューマンという男」で1963年度のアカデミー助演男優賞にノミネートされた。

ボビーが歌のツアーに出るというので、この頃から2人の関係がギクシャクしてきた。サンドラは長男ドッドを産んだばかり。仕事もある。しかしボビーは同行を強要する。仕方なくボビーと行動を共にするサンドラだが、ボビーのステージが快調に進むにつれ、サンドラの酒の量も増えていく…。一方ボビーもステージが心臓に悪影響を及ぼしていた…。

The3結局アカデミー助演男優賞を獲得出来ず(受賞者は「ハッド」のメルヴィン・ダグラス)、2人の喧嘩・罵り合いは度を越していく。

ボビーは働きすぎだった。家族と過ごすことに専念した。

激動の60年代、ドッドはすくすくと成長し、国も音楽シーンも激変し、会場はクラブからスタジアムへ。ボビーは突然用無しになった。

ボビーは政治に強く係わることになる。ベトナム戦争まっただ中の時代だった。ロバート・ケネディのシンパになった。

「新聞は政治活動をしている人間の過去を暴きだす」と姉ニーナがボビーに突然告白をした。実は母親だと思っていたポリーはボビーにとって“祖母”で、自分こそが彼の“母親”だと。ボビーは衝撃を受け、怒りに駆られ、自分のレコードを叩き割り、カツラを外し、ゴールドディスクをゴミに出し、そして消えた。

質素なトレーラーハウスで1人暮らし始めた。ボブ・ディランに傾倒しフォークを書いた。髭を伸ばしヒッピーのようになった。

1968年、ロバート・ケネディが暗殺された。

ボビーは再び音楽シーンに戻る。しかし、ギター1つでフォークを歌うヒッピーは見向きもされなかった。野次で舞台を降ろされた。

ボビーは心臓の手術を受ける。成功だった。皆に誕生日を祝ってもらった。36歳まで生きられたのだ。サンドラと久々に顔を合わせるボビー。サンドラは「人は浅はかで見た目で音楽を聴くの」という言葉にボビーは雷に討たれたようにになる。そしてラスベガスへ。

当日のボビーは調子が悪かった。また心臓手術が必要になっていた。しかし、気力を振り絞りステージへ上がる。

以前の身綺麗なボビー・ダーリンが帰って来た。歌はフォークだったが、ボビーの見事なアレンジで皆は総立ち、手拍子だ。彼は見事に復活したのだ。ボビー・ダーリン、偉大なエンターテイナー。ニーナを“母親”だと公表もした。そして別れの歌を歌った。

メークを落とそう 道化師の衣装を脱ごう

カーテンは下りた 音楽は静かに鳴り

でも君たちが微笑みながら会場を後にしてくれたらうれしい

ショービジネスの世界じゃ“これで終わり後はない”と言う

僕らは一瞬を分け合ったが その一瞬は終わった

おかしな気分だ 僕らは友人として別れた

君たちの歓声や笑い声はまだ残っている

その声でくすんだ壁は揺らいだ

もう一度歌えれば また今宵は新しくなる

また君らと同じ時を過ごしたい

だけどもうカーテンは下りた

君たちの歓声や笑い声は残っている

その声でくすんだ壁は揺らいだ

人は言う このために私は生まれたと

このためだったら私は何だってする

そして思う これをやって私は救われたと…

ボビー・ダーリン、163曲を作曲し数千枚のレコード売上を記録。1973年12月20日心臓手術中に死去。享年37歳。

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― いやぁ、ケヴィン・スペイシー、一世一代の渾身の映画でした。そして徹底したエンターテイメントに酔いしれる。美声だとは思っていたが、ここまで歌が上手いとは知らなんだ。おまけにダンスまで披露してくれちゃう。動きがやや重いのは御愛嬌として、かなり頑張ってました。

ただ残念なのは、ボビー・ダーリンとサンドラ・ディーの関係。エンド・クレジットで「この映画は事実を基に製作した作品であり人物や事実や時間等に脚色や省略があるがそこに宣伝目的は一切ない」と出ているのだが、映画ではボビーとサンドラは最後まで添い遂げた印象を持つが、2人は1967年に離婚しているんですね。これは是非取り上げてもらいたかった“事実”ですね。この映画を作るにあたってサンドラ・ディーの協力は多分にあったに難くないと思われる。離婚してかえって距離が縮まる夫婦もいる。彼らはおそらくそんな関係だったのだと思うのだが、サンドラ・ディーは最後まで「未亡人」として2005年に亡くなっているが、それはどうだろう。美化しすぎの感があり。

映画自体はテンポが良くて「監督 ケヴィン・スペイシー」の実力はかなりなものかと。湿っぽい終わり方にしなかったのも良かった。実はあのステージの最後の歌から、ボビーの子役とミュージカルシーンがあり、最後はハッピーな歌で終わる。

音楽を作るのはこの上ない喜び

僕と音楽は小節の中の音符

僕が歌う限り世界はスウィング

そう 僕が歌う限り

僕が僕の歌を歌う限り!

これはもしかして映画史に残る「珍品」かもしれない。あのオスカー俳優ケヴィン・スペイシーが歌って踊る?しかし「傑作ミュージカル」でもある。ケヴィン・スペイシーはボビー・ダーリンになり切っていた。あの美声、あの(ちょっと滑稽な)ダンス…。私にはそれで充分である。

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2008年5月15日

アメリカン・ビューティー

1 1999年<アメリカ>

監督 サム・メンデス

出演 ケヴィン・スペイシー/アネット・ベニング/ソーラ・バーチ/ウェス・ベントレー/ミーナ・スヴァーリ/クリス・クーパー/ピーター・ギャラガー

ストーリー

アメリカ郊外の新興住宅地に住む広告マンのレスターは不動産ブローカーの妻キャロリンと高校生の娘ジェーンの3人暮らし。見栄っ張りな妻と反抗期にある娘とはろくに話も出来ず死んだような毎日を送っていたレスターだが、ある日変化が訪れる…。

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普通の人々?妻キャロリン(アネット・ベニング)、娘ジェーン(ソーラ・バーチ)、レスター(ケヴィン・スペイシー)

これはあと1年足らずで死ぬ運命にある男の物語である。

42歳、中年の危機にある男。妻に疲れ、娘には好かれず、会社のリストラ要員。人生の惨敗者だ。そのままでも十分死んでいる。しかし、ある出来事が彼を変える。

娘のチア・リーディングを見に行った折、レスターはある娘と目が合う。そして速効恋に落ちた。彼女の名はアンジェラ。娘ジェーンの親友だった。

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         アンジェラ(ミーナ・スヴァーリ)

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恋に落ちたレスター(ケヴィン・スペイシー)(右、アネット・ベニング)

試合の帰り、レスターはアンジェラに自己紹介し気を引こうとする。その魂胆を見抜きあきれる娘ジェーン。

それからレスターの魂は解き放たれる。幸せな妄想に浸る日々が始まる。

一方ジェーンは、隣に越してきたフィッツ家の一人息子でビデオ・マニアのリッキーの撮影の対象になり、困惑していた。

フィッツ家も威圧的な海軍大佐の父親、無口で無表情な母親、リッキーは父親に精神科通いを強要されていて幸せな家庭とは程遠い。

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         普通の人々?フィッツ家の面々

不動産ブローカーのクリスマス・パーティでレスターとキャロリンは「不動産の王様、バディ・ケーン」に近ずきになる。普段はライバル視しているのに今日のキャロリンはハンサムなバディに媚びている。疲れたレスターはバーテンのバイトをしていたリッキーからマリファナを買いハイになる。実はリッキー、ヤクの売人でもあったのだ。

バイトをサボって2人でマリファナを吸っていると、リッキーの上司がやって来て「仕事をしない者にはバイト料は出さんぞ」と脅すと、「結構。要りません。辞めます。バイト料は忘れて消えてください」と冷静に対処するのだった。その瞬間リッキーはレスターのヒーローになった。

家に帰って来たレスターを待ち構えていたのは、アンジェラだった。今日彼女が泊まると聞いて平静でいられなくなるレスター。ついにはジェーンの部屋の壁に耳をつけて2人の話を盗み聞きする始末だ。

34アンジェラが「少し筋肉を付ければ最高よ!筋肉を付けたら彼と寝るわ」と言えば、レスターは早速ガレージに直行。鉄アレイを見つけ、窓に映った自分のたるんだ全裸を確認すると、黙々とトレーニングに励むのだった。リッキーが「これぞ珍品のホームビデオ」と言って撮影しているとは全く気付かずに…。

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…夜、レスターはトイレに起きた。しかし開けたドアの中には、バスタブに浸かった女神アンジェラが待っていた。「私の体を洗って。私、とても汚れているの…」と彼女はレスターを挑発する。レスターの手がアンジェラの股間に延びる…。

…そしてレスターは幸せな自慰行為に励んでいた。

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「いやらしいっ!!」と夫を罵るキャロリン。しかしレスターも反撃だ。最初に拒んだのはキャロリンの方ではなかったか?キャロリンは離婚の話まで持ち出す。しかしレスターも抜かりがない。財産は半分彼の許へ行くことになっているのだ。完全に冷え切った夫婦が1つのベッドで寝る孤独…。

レスターのワークアウトは着々と進む。隣のゲイのカップルとジョギングしていると、フィッツ大佐はレスターまでゲイだと思ってしまったようだ。

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        フィッツ大佐(クリス・クーパー)

レスターは再びリッキーからマリファナを仕入れた。そして14年間勤めた会社を何の未練もなく辞めた。

リッキーはただただジェーンに焦点を当ててビデオを撮影していた。これが彼の恋愛表現なのだ。

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    ジェーンを撮るリッキー(ウェス・ベントレー)

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   リッキーに何かを感じたジェーン(ソーラ・バーチ)

2人は2キロの帰り道を一緒に歩いて帰ることになる。

一方、欲求不満の妻キャロリンはついにバデイとベッド・インする。彼と寝てキャロリンは欲求不満解消である。バディへののめり込みも本格的なものとなった。

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レスターはハンバーガー・ショップに再就職。何の責任も重圧もない仕事だ。

リッキーとジェーンは彼の一番“美しい”ビデオを鑑賞する。風に吹かれた枯れ葉とゴミ袋…。リッキーの“美”への強い思い入れに感銘を受けたジェーン。彼の手を取り、キスをする。2人の距離は急速に縮まっていく…。

レスターは家族にも誰にも気兼ねしなくなっていく。念願だった車を手に入れ、アンジェラと寝る日に備えてワークアウトは益々力がこもり、リッキーからマリファナを仕入れる生活。彼は以前とは見違えるように自由になっていた…。

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一方娘のジェーンは父親殺害をリッキーに依頼していた…。

― アメリカに巣食う問題を総動員したって感じのブラック・コメディでした。家庭崩壊。冷めた夫婦仲。厳しいビジネスの世界。不倫。同性愛。ティーンエイジャーの悩み。親からの自立。孤独…。これらが渾然一体となって、とてもシニカルで面白い作品に仕上がっています。

この映画の登場人物は皆孤独だ。家庭の中で死んだように過ごす男。家を売ることしか頭にない妻。父親を軽蔑し、自分のルックスに自信が持てない娘。「私は皆と違う」と言ってはばからないルックスが自慢の娘の親友。主人公宅の隣に越してきた一家…。父親は息子に対して優位に立とうとする。息子は冷めた目で父親を見、ビデオ撮影に逃避する。存在するのかも分からない妻…。

そして孤独からの解放。死んだような男が自由を手に入れる。娘の親友に恋し妄想に浸り、隣の息子が差し出したマリファナを手放せなくなり、そして会社を辞める。妻の方まで不倫一直線だ。娘は隣の息子のビデオ撮影の対象になり不気味がり困惑するが、彼の部屋へ招き入れられ「最高に美しい映像」に目が離せなくなり、彼の純粋さに心を打たれる。

そして秘密。主人公の娘の親友と寝たいという願望(娘には見破られているが)。妻の不倫。娘の親友のとるに足らない秘密(娘の手前、本人にしてみれば大きな秘密だが)。隣の息子は実はヤクの売人で、その父親の知られざる秘密…。

主人公は最後死ぬことになるのだが、それまでの経緯がスリリングでラストまで目が離せない。ラストへ向かう土砂降りの雨は芸術的で感動的でさえある。

ケヴィン・スペイシーの程よく力の抜けたさりげない演技(アカデミー主演男優賞受賞)と、アネット・ベニングの力が入りまくった演技の対比も良い。

「ユージュアル・サスペクツ」でケヴィン・スペイシーを見てから、彼のファンになってしまったのだが、彼の声はとても心地よいのだ。私は彼の声に魅了されたと言ってもいいぐらいだ。彼のナレーションを聞くだけでも価値がある一品だが、脚本も練りに練られ、撮影も素晴らしい。

皆が「美しいもの」を探す旅に出る作品でもある。

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2008年5月 5日

ソイレント・グリーン

1 1973年<アメリカ>

監督

リチャード・フライシャー

出演

チャールトン・ヘストン

エドワード・G・ロビンソン

リー・テイラー・ヤング

チャック・コナーズ

ストーリー

2022年のにニューヨーク。ここも地球上の全ての土地と同様人口過剰と食糧不足にあえいでおり、ごく一部の裕福な人を除き4000万市民の大部分は週1回配給されている食品を食べて細々と生きていた。その食料はソイレント社が海のプランクトンから作っていたが、すでにそのプランクトンも激減していた。最近、同社は「ソイレント・グリーン」という新しい製品を開発したが、品不足から配給は思うようにいかず市民の不平不満は一発触発の危機をはらんでいた。そんな中、ソイレント社の幹部の1人ウイリアム・サイモンソンが自宅で惨殺される事件が起こる。刑事ソーンはこの事件を重要と見て深く追うが…。

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護衛のタブ(チャック・コナーズ)と刑事ソーン(チャールトン・ヘストン)

動物や植物が死滅した近未来。ソーンと“警察の本”ソルが住むアパートの廊下や階段には、失業し家を失った人々が溢れている。2人が住むアパートも決して褒められたものではない。電気などは自転車漕ぎの自家発電だ。

一方、特権階級のウイリアム・サイモンソン宅には“家具”と呼ばれる女性と護衛が付いている。その2人が買い物に出た隙に、彼は何者かによって殺される。

刑事ソーンは職権乱用を平気でする男だ。警察も歓迎しているところがある。サイモンソンの酒や日用品・食料を奪い、“家具”のシャールとも愛し合う。しかし腕は確かだ。サイモンソン殺しはプロの仕業だと見破り調査をソルと共に進めることになる。

ソーンは護衛のタブを怪しんで彼のアパートに押し入る。タブにも“家具”が付き、なかなか豪勢な生活ぶりだ。1瓶150ドルのイチゴジャムを惜しげもなく舐める“家具”。特権階級の人間の護衛だけでこんな豪勢な暮らしが出来るのか?

彼はアパートに帰ると、早速サイモンソンの所から奪ってきた食料でソルが調理した食事を堪能する。バーボンで乾杯し、生野菜を食べる。最後はビーフシチューだ。心地よい驚きのソーン。久々のまともな食事に満足するソル…。

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  ソーンと“警察の本”ソル(エドワード・G・ロビンソン)

街のパトロールに出たソーンは尾行されはじめる。それはサイモンソンが「ソイレント社」の幹部の1人だったからに違いない。しかし警察ではサイモンソン殺しを暴行事件として闇に葬ろうとしていた。明らかに警察上層部からの指令だ。ソーンは食い下がる。何としてでも事件を解決すると誓った。

そんな中、サイモンソンが罪を告白した神父がタブによって殺された。神父は前夜ソーンに会っており、「彼の告白の真実は破滅を招く…」とうつろな様子で語っていたのだ。

火曜日の配給の日、「ソイレント・グリーン」を求めて人々は列をなす。品切れになると民衆は暴徒化する。その暴徒を巨大なショベル・カーが一掃していく。警官と暴徒の攻防戦。

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しかしその混乱に乗じてソーンを暗殺しようとする男がいた。ソーンは脚を撃たれたが、男はショベルカーの下敷きになって死んだ。

一方ソルは「情報交換所」へ足を運んだ。サイモンソン殺しの真相を聞くためだ。彼は衝撃的で信じがたい事実を有識者から聞く。…そして20分で人生を終わらせることが出来る「ホーム」行きを決めたのだった。自らの体を使い、ソーンが無事間に合うことを期待して…。

アパートに帰ったソーンはソルの伝言を読んで急いで「ホーム」へ向かった…。

― いやぁ怖いねぇ…。“近未来”の話ではなく“そこにある将来”の話のようだ。何気に皆(ソーンとソルを除いて)無機質で不気味。

「家具」と呼ばれる特権階級に仕える女。「本」と呼ばれる警察の情報提供者。失業者は人口の半分を占め、ホームレスが溢れている。夜間には外出禁止令が敷かれ、食事は配給制。暴徒化した人間は大型ショベルカーで始末される。

そんな市民が食料として頼っているのが、「ソイレント社」のビスケット状のもの。その中で「ソイレント・グリーン」が一番新しいく栄養も万点だ。しかし、その会社の幹部が殺されたことで、これは“暗殺”だと推理した刑事が命を狙われる…。

とにかく皆無機質。ソーンと愛し合う仲になる「家具」のシャール(段々人間らしさが出てきますが)、護衛のタブ、暗殺者、「ソイレント社」の関係者、サイモンソンから告白を受けた神父、果てはサイモンソンまで。これがじわっと怖い。

一方、「ソイレント・グリーン」の秘密を追う刑事ソーンとその「本」ソルの間には、本物の“愛”がある。ソーンがサイモンソンの許から奪った品々をソルに見せ、紙や本を渡すシーン、本物の食料で調理した食事を味わうシーンなど心に沁み入る。

そしてソルが「ホーム」へ行くシーン。ソーンがギリギリ間に合って彼と会話を交わすシーンは涙さえ誘う。ソルは自分の最期をかつての美しい世界…花が咲き乱れ、動物が躍動し、海は鼓動し、太陽は赤く沈む…で終わらせる。それを目の当たりにしたソーンは信じられずもしかし思わず感動してしまうのだ。ソルは常々言っていた。「人間はダメだが、世界は美しかった」と。

これがエドワード・G・ロビンソンの最後のシーン(遺作ですね)なので余計に涙を誘う。

ソルの意を継いだソーンが探り当てた「ソイレント・グリーン」の正体とは?戦慄ですね。

SF映画の割には小細工(特撮など)を使わず、正面から勝負してきた作品なので「古さ」は感じませんでした。それより、すぐそこにある将来像という感じがして、ただ怖い。不気味な作品。

タイトル・ロールが秀逸。

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