映画 ドイツ

2008年1月26日

ヒトラー ~最期の12日間~

2 2004年 <ドイツ>

監督  オリヴァー・

   ヒルシュビーゲル

出演 ブルーノ・ガンツ

アレクサンドラ・

       マリア・ララ

コリンナ・ハルフォウフ

ユリアーネ・ケーラー

ストーリー

1945年4月20日、ベルリン。迫り来るソ連軍から身を守るため、ナチス党総統アトルフ・ヒトラーは、ごく限られた身内や側近たちと共に、ドイツ首相官邸の地下にある要塞へ退却。ヒトラーの個人秘書であるトラウドゥル・ユンゲもその中にいた。側近たちはすでに敗戦を確信していたが、客観的な判断能力を失っていたヒトラーだけが、不可能な大逆転の作戦について熱く語り続けていた。そんな中、ヒトラーの56回目の誕生日を皆が祝福する。その頃、ベルリン市内は地獄絵のような様相を呈していた…。

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  狂気の指導者、アドルフ・ヒトラー (ブルーノ・ガンツ)

「今なら私も、若くて愚かだった当事の私に腹が立ちます。恐ろしい怪物の正体に、私は気づけませんでした。ただ夢中で何も考えず、秘書の依頼を受けました。熱烈なナチではなかったし、断ることも出来たはずです。“私は総統本部へは参りません”と。でも好奇心に突き動かされ、愚かにも飛び込みました。思いもよらぬ運命が待っているとも知らずに…。― とはいえ、今も自分を許せずにいます…。」

これは、ヒトラーの個人秘書、トラウドゥル・ユンゲの言葉である。

この映画は、ユンゲのインタビューと映画と同名の研究書によって書かれた、ドキュメンタリー・タッチの作品である。

―1942年11月、東プロイセン総統本部。ユンゲは見事秘書の地位を勝ち取った。まだ22歳の若さだった。

…そして1945年、4月20日。ヒトラーの誕生日。

忠誠を誓うようなふりをして、ヒトラーの腹を探る部下たち。裏切りの口実を探す…。

敗戦が濃厚なベルリン市内を、市民を見捨てるヒトラー。

そしてベルリン市内の治安が悪化していく中、親衛隊は秩序を失い、市民軍は武器の不足で、ソ連兵の餌食になっていく…。

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そして、正気を失い、成功するはずも無い作戦に望みをかけるヒトラー。部下はそんな作戦はソ連軍に通じるはずがないと思っている。だが進言しても、ヒトラーは自分の作戦に益々しがみつくだけだ。

ソ連軍の攻撃が激しくなる中、地下要塞の病院には負傷兵があふれ、いくら薬があろうと、外科手術で兵士の手足が切り落とされていく…。

ヒトラーに最も忠実な部下、ゲッペルスの家族が地下要塞に避難してきた。特に夫人は筋金入りのナチ支持者だ。

23 ヒトラーはユンゲに避難を勧めるが、エヴァ・ブラウンが最期まで彼と一緒にいるという言葉につられたのか、私も残ると言う…。

ヒトラー、エヴァ、ユンゲ、ヒトラーのもう1人の秘書ゲルダが自殺の方法を話し合う。エヴアは毒で美しく死ぬと言う。ゲルダとユンゲもこの毒を希望した。ヒトラーは2人に渡す。「すまないね、こんな物しかやれん…。」と言って。

4月23日、エヴァ・ブラウンは妹に宛て、遺書をしたためる。

ゲッペルス夫人も遺書をしたためた。

24…ゲーリングが裏切った。そして、ヒムラーも西側に降伏を申し入れた。英国のラジオでも公表された。ゲッペルスと共に最も忠実だった部下の裏切り…。ヒトラーのヒステリーが地下要塞に響く。そして、不可能な攻撃作戦を喋り続けた…。

敗戦の色が濃くなるほど、兵士たちは退廃的になってきた。今や乱痴気騒ぎが当然のようだ。

敗戦が決定的になり、ついにヒトラーは、“政治的遺言書”をユンゲに書かせる。

26「1914年にわが微力を尽くすべく、先の大戦で志願兵になってから、早くも30年が過ぎた。この30年、私の思考と行動と生活の全ては、国民への愛と忠誠に動かされてきた。何世紀が過ぎても、都市や文化財の廃墟から、戦争責任を負う者らへの憎悪が再生するだろう。責を負う者らとは、ユダヤ民族とその支持者どもだ。」

そしてヒトラーとエヴァは、地下要塞で簡素な式を挙げ「夫婦」となった。

もうソ連軍が数百メートルまで迫っていた。もう一縷の希望も残っていないヒトラーは、エヴァと自殺することにする。遺体は敵のさらしの物になるのを嫌い、ひとかたも無く燃やせと部下に命令する。

…そして総統の部屋から銃声が響く。運び出される2人の遺体。屋外に掘った穴に遺体は無造作に置かれ、焼かれた。

ヒトラー亡き後、部下たちは迷走する。ソ連軍と休戦交渉するも、無条件降伏しか受け入れなれないと突っぱねられる。ゲッペルスだけが、まだ戦うと意気盛んだ。

しかし、ゲッペルスもユンゲに遺言の口述筆記を頼む。

「虚偽はいつか消え、再び真実が勝利する。その時こそ我々の地は、清らかで完璧に…」と。

そして、夫人は6人の子供を毒殺する…。

17…ユンゲは地下要塞にいるより、地上へ出たかった。脱出を決意し、ゲルダや兵士と一緒に要塞を出て行く。

外では、ソ連軍最高司令部との合意に基づき、兵士に即時戦闘を中止するよう命令していた。

そして、ゲッペルス夫妻も自殺した…。

29荒廃し、ソ連軍が迫る中、外へ出て行ったユンゲの目には地獄絵図が広がっていた。

目標の地点もないまま、歩き続けるユンゲたち…。不意にソ連兵が現れる。兵士たちは抵抗もせず、投降する。

その中をユンゲは歩き出した。途中、少年が手をつないだ。ソ連兵の中を黙々と歩き続ける2人…。

その間に戦争は終結した…。5月7日。ユンゲは少年と自転車で森の中を走っていた。

8日、全戦闘終結で合意。

大戦の死者は5000万人を超え、600万人のユダヤ人が収容所で殺害された…。

「ニュルンベルグ裁判で、恐ろしい話は聞きました。600万人のユダヤ人や人種の違う人々が無残に殺されたと…。これらの事実は大変ショックでした。でも私は、それを自分と結びつけられず、安心していたのです。“自分に非はない。私は何も知らなかった”そう考えていました。でもある日、犠牲者の銘板を見たのです。― ゾフィー・ショル。彼女の人生が記されていました。私と同じ年に生まれ、私が総統秘書になった年に、処刑されたと。その時、私は気づきました。若かったというのは、言い訳にならない。目を開いていれば、気づけたのだと…。」

― ヒトラー最晩年の2年半を個人秘書として過ごしたトラウドウル・ユンゲの回想から始まり終わる、この映画は、“ヒトラー”という怪物の素顔を明かした、貴重な映画だ。

ヒトラーは私人としては、極めて優しい人物として書かれている。愛犬家で、エヴァ・ブラウンをこよなく愛した男。ゲッペルス家の子供に優しく、ユンゲにも気配りを欠かさない人物…。

しかし、“総統”となると人が変わる。敗戦が決定的になると、側近に地下要塞から避難をするように命じるものの、市民の命などどうでもよいのだ。市民が戦うのは、自己責任であると言って突き放す、恐ろしい人物…。人間なのか…と疑いたくもなる。

部下の進言は聞かない。自分のプランしか頭に無い。(パーキンソン病で思考能力が弱っていたという説もあり)

敗戦が決定的になると、無責任にエヴァ・ブラウンと自殺して果てた男。

そして自分亡き後も、戦い続けろと部下に命令していた、血も涙も無い指導者…。

ユダヤ人600万人を死に追いやった男。ドイツ国民も含めて、5000万人を死に追いやった男…。

彼の悪行を並べ立てていくと、とどまる事を知らない。正に狂気の破壊者だ。

エヴァ・ブラウンが、ユンゲに、「彼と15年いるけど、彼のこと、何も知らない…」と言う。ユンゲは「彼は謎だ…。」と言う。

…映画の冒頭と終わりのユンゲの言葉が重い。

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2008年1月22日

善き人のためのソナタ

Photo 2006年 <ドイツ>

監督 

フロリアン・ヘルケン・

  フォン・ドナースマルク

出演

ウルリッヒ・ミューエ

マルティナ・ゲデック

セバスチャン・コッホ

ストーリー

1984年、東西冷戦下の東ベルリン。国家保安局(シュタージ)局員のヴィースラーは、劇作家のドライマンと舞台女優である恋人のクリスタが反体制的であるという証拠をつかむよう命じられた。成功すれば出世が待っていたが、しかし予期していなかったことが彼に起こる…。

※ ネタバレです

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 冷徹な尋問者、ヴィースラー大尉(ウルリッヒ・ミューエ)

拘置所の一室に1人の男が入る“大尉”に尋問されるのだ。男の友人が、「西」へ逃亡したのだ。その協力者を言えという。男は身に覚えがないと言う。…それから尋問は40時間続いた。男は眠らせてももらえない。ついに男は協力者の名前を白状した…。

大学…“ヴィースラー大尉”はこの尋問のテープを学生に聞かせ、どのように尋問すべきか冷静に判断するよう教えていた。

Photo 授業が終わると、友人のグルヴィッツ中佐が彼を演劇に誘った。劇場に行く二人。劇場には意外にも、ヘムブフ大臣も来ていた。かつて国家保安省でにらみをきかせ、演劇界を“大掃除”した人物である。

西ドイツにも知名度があり東ドイツに忠実な、ゲオルク・ドライマンの書いた劇が幕を開ける。― ヒロインはとても美しかった。しかし、ヴィースラーの目はしきりにドライデンとヒロインの間を行ったり来たりする。ある思いが確信に変わる。

ドライマンを監視する、と。

9_3 グルヴイッツはヘムブフ大臣と話をする。ドライマンは見かけより、“クリーン”では無いと、ヴィースラーの考えを大臣に吹き込む。大臣は、来週ドライマンが開くパーティに怪しい連中が集まる。盗聴器を仕掛けろと言う。収穫があれば、グルヴイッツは大臣から中央委員会に働きかけると言われた。

パーティ…その場にそぐわない男が1人。ヘムブフ大臣だ。芸術に乾杯などとスピーチをしても、違和感は拭いきれない。劇のヒロイン、クリスタの頬にキスをしながら尻を触る男だ。ドライマンと以前組んでいた演出家のイェルスカは、職業停止の憂き目にあっていた。彼の復職を願うドライマンだが、ヘムブフは全く聞こうとしない。

ドライマンのアパートに盗聴器が仕掛けられる。部屋の隅から隅までくまなくだ。ヴィースラーは小屋裏にちょうどよい盗聴部屋を見つけた。

盗聴部屋に入り、電気をつけ、ヘッドホンを装着し、ヴィースラーはドライマンの盗聴を始めた。

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どうやらクリスタはドライマンの誕生日パーティの準備に余念がない。客が来たが、アパートの入り口の鍵がロックされているようだ。ドライマンが見に行く。その隙にクリスタは“クスリ”を飲んだ…。

パーティには、イェルスカも来ていた。しかし、誰も彼に話しかけようとしない。たまらずドライマンが彼の許へ行く。イェルスカから誕生日プレゼントを貰う。彼がプレゼントしたのは、「善き人のためのソナタ」という楽譜だった…。

…劇場の稽古場から出てきたクリスタを待っていたのは、黒塗りのリムジンだった。彼女はその車に乗り込む。相手は、ヘムブフ大臣だった。ヴィースラーはドライマンのアパートに盗聴器を仕掛ける前に、同じ場面を見ていた。ヴィースラーのイタズラで、ドライマンが、車から降り次の約束をしているクリスタを見てしまった…。

― ヴィースラーは孤独な1人暮らしだ。誰も待つことのないアパートに帰る孤独…。娼婦を呼んでも気分は晴れない…。

ある日、ヴィースラーは1人でドライマンのアパートに忍び込み、ブレヒトの本を盗む。孤独な部屋で“西側”の甘美な思いに浸るヴィースラー…。

…ドライマンは電話でイェルスカの自殺を聞いた。彼は誕生日プレゼントに貰った「善き人のためのソナタ」を弾く。そして、「この音楽を本気で聴いた者は、悪人になれない」と言った。…ヴィースラーは聞いていたのだ。

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盗聴を交代してから、寄ったバーでクリスタと鉢合わせるヴィースラー。彼は思い切ってクリスタに話しかける。舞台のあなたは今以上の存在だった。輝いていた、と。しかし、今のあなたはあなたじゃない…。するとクリスタは、「私は最愛の男を傷つけていると思う?芸術のために身を売っていると?」ヴィースラーは、芸術家がそんな取引をしてはいけないと言う。あなたは立派な芸術家だ、と。しかし彼女はヘムブフとの逢瀬に出かけて行った…。

翌朝、部下の報告書を読むヴィースラー。それによると、クリスタは車には乗らずにドライマンの許へ駆けつけたとのことだった。激しいセックス…。もう離れないというクリスタ…。

8スランプだったドライマンも、この一言で創作意欲が出てきたようだ。

…イェルスカの葬式。ドライマンは彼の事を西側で公表したいと友人に持ちかけた。

「国民について、ハンス・バイムラー通りの統計局は全て知っている。私が年間に買う靴の数は2.3足。私が年間に読む本の数は3.2冊。毎年オールAで卒業する学生は6347名。だが彼らが数えないものが1つある、自殺者の数だ。役人にとって苦痛なのだろう。連中に聞くがいい、東ドイツの国境でどれほど多くが絶望して命を絶ったか。あなたもいずれ自殺者の1人になるかもしれない。灰色の男たちは国家を守っていると信じている。…国民の幸せを。―1977年、わが国は自殺者を数えるのをやめた。彼らは“自己犠牲者”と呼ばれる。なんと理不尽な呼び方だろう。そこには流血への欲望も熱い情熱もない。あるのは死だけ、“希望の死”だ。9年前に数えるのをやめた時、ヨーロッパで一番自殺者の多い国はハンガリーだった。次が東ドイツ“現存する社会主義”の国だ。数えられなかった自殺者、イェルスカは偉大なる演出家だ。彼を語り継ごう…。」と、ドライマンは原稿を書いた。

Photo 友人たちはドライマンのアパートに行き、盗聴されていないかでたらめな情報を流した。それを聞いていたヴィースラーは、計画を止めようとした。車が通る通りを確認し、検問所に電話をかけた。しかし、「今回だけは見逃してやる」とつぶやき、受話器を置いた…。

ドライマンのアパートでは、イェルスカの原稿をどのように公表するか議論が続いていた。演劇の形にして発表するのが一番だという事を話し合っていた。盗聴していたヴィースラーの部下は、これを大事だと思い彼に聞かせる。しかし、ヴィースラーは建国40周年記念の舞台の台本を書いているのだと言い切る。

西側の雑誌記者は、タイプライターを持ってきた。東ドイツではタイプライターは登録され管理されている。記事を誰が書いたのか分からないように慎重に事を運ぶためだ。

ヴィースラーは事を全て書きとめた報告書を、グルヴィッツの許へ持って行った。しかし、拘留中の芸術家の話を彼が始めると、ヴィースラーはドライマンの監視を縮小すると言い出した。こんな不確かな相手を昼夜盗聴するのはムダだ、と。むしろ外での監視のほうが効果があると言う。グルヴィッツは、ヴィースラーが何か隠していると見た。しかし、彼を信じた。そしてヴィースラーは報告書の入った封筒をグルヴィッツに渡すことなく部屋を出て行った…。

ついにTVが、西側の雑誌が東ドイツの自殺者のことを載せたと報道した。

シュタージにも誰が書いたか分からなかった。だがグルヴイッツはドライマンの仕業と思い、ヴィースラーに連絡を取った。シラをきるヴィースラー…。彼は嘘を重ねていた。

…ヘムブフ大臣の逆鱗にふれたクリスタが違法薬物所持で捕まった。舞台に立ちたい彼女はシュタージのために何でもすると言ったが、もう遅かった。だが、東ドイツの自殺者の件を載せた雑誌のことを話せば道は開けるとグルヴイッツは言った…。

ドライマンのアパートの家宅捜査が始まった。不意の出来事に驚くヴィースラー。しかし何も見つからず、ホッと胸をなでおろす…。

翌朝、グルヴィッツに呼ばれ国家保安局へ行ったヴィースラーは、尋問室へ行くよう言われる。待っていたグルヴィッツは、彼に懐疑的になっていた。まだ我々の見方か?とヴィースラーに問う。ヴィースラーは、「そうだ」と言い切った。

10そしてクリスタの尋問がヴィースラーの手で行われた。

「タイプライターの隠し場所を言えば、劇場に復帰させてやる。君の居場所だ」の一言が効いた。クリスタは隠し場所を吐き、釈放された…。

早速ドライマンのアパートが再び家宅捜索されることになった。ヴィースラーは一足先にアパートに来ていた。

家宅捜索…クリスタの言ったタイプライターの隠し場所をグルヴィッツが開けようとしたところ、クリスタは逃げ出した。隠し場所のドアの敷居を開けた…が、何も無かった。驚くドライマン…。してやられたグルヴィッツ…。

逃げ出したクリスタは道路に走り出た。そこに車が来た…衝突。倒れるクリスタ…。ヴィースラーが駆け寄る。実はヴィースラーがタイプライターを別の場所に隠したのだった。音を聞いたドライマンが部屋から飛び出してきた。動かないクリスタに、「僕を許してくれ…」と言い続け泣き崩れた…。そしてドライマンの監視も終わった。

グルヴイッツはヴィースラーが証拠隠滅を図ったと見破った。これでヴィースラーは終わりだった。退役まで20年、地下室で手紙の開封作業に追われる日々に代わった…。

…それから4年7ヶ月後、11月9日ベルリンの壁が崩壊した。そしてヴィースラーの仕事も終わった…。

劇場 ― ドライマンは途中で席を立ち、ロビーへ出た。すると、「思い出が多すぎるな」と言う声がする。ヘムブフ大臣だ。ドライマンは壁が崩壊してから1本も書いていなかった…。

ドライマンはヘムブフに問うた。何故自分は監視されなかったのか、と。完全監視だったとヘムブフは答えた。隅から隅まで筒抜けだった。ドライマンは「こんなクズが国を支配視していたなんて…」と絶句しながら、劇場を後にした。

アパートに帰ると、電灯スイッチの下をたどった。線がびっしり張っていた。そして彼は自分の監視記録を調べるために公文書館へ足を運んだ。

ドライマンの記録は膨大にあった。読んでいくうちに、報告に嘘が多いのに気づく。報告書の製作者は、「HGW XX7」であった。この人物に興味が沸いた。誰かと聞いた…。

ヴィースラーは、今はチラシ配りの生活をしていた。仕事中の彼をドライマンが探し当てた。しかし、声は掛けずに彼の姿を目で追いながら、去っていった…。

…それから2年後。ドライマンは本を出版した。本屋に所狭しと並んでいる彼の本…。ヴィースラーは興味に駆られ、本を開いた。「善き人のためのソナタ」と題したその本には、“感謝をこめて HGW XX7 に捧げる”と献辞が添えられていた。ヴィースラーはレジへ行き本を買った。店員が「ギフト包装は?」と聞いたとき、「いや、私のための本だ」と答えた…。

― いやぁ…この映画は久々の新しい映画での大ヒットでした。

ガチガチの共産主義者で、厳しい尋問者ヴィースラー大尉に不意に訪れた開かれた世界。本当の愛情、自由な思想。東ドイツの厳しい現実を突きつけられ、変わっていくヴィースラー。「善き人のためのソナタ」を聞いた彼は、本当に悪人になれなかった。

それは、グルヴィッツに誘われた舞台から始まった。彼は劇のヒロインのクリスタに心奪われたのだ。クリスタには身を汚して欲しくない。そんな気持ちから、彼女の恋人のドライマンに同調していく自分がいる。

2人を盗聴することは、孤独な自分を癒したのかもしれない。徹底した「無表情」の中には、孤独を押し隠す1人の男の姿があった。愛情溢れるセックス、2人の楽しい会話…。これらが彼を益々盗聴にのめりこませた。

そして、イェルスカの自殺を境に、彼の報告書には嘘の記載が多くなっていく…。まさか自分がクリスタを尋問することになろうとは思わずに。

段々と人間らしさを見せ始めるヴィースラーは、観ている者にとって喜びである。「無表情」の中の複雑な感情を推し量るのは、難しいことではない。

ドライマンも友人から散々クリスタが怪しいと言われ続けたのに、信じきったその愛は美しい。

そして、体制側の脇役も憎いのだ。出世しか頭にない友人のグルヴィッツ中佐。クリスタしか頭にないヘムブフ大臣。

ヘムブフ大臣はクリスタに振られ続け、ついには違法薬物所持で逮捕させる。彼女の舞台は二度と観たくないと言って…。

グルヴィッツは、どうもヴィースラーが嘘をついているのではないかと感じ始める。そして、彼にクリスタの尋問をさせるのだ…。

しかし、映画の最後は清々しい。

細々とチラシ配りをして生活しているヴィースラーが、偶然本屋の前を通る。そこにはドライマンの大写しの顔のポスターと新刊が置いてある。本屋に入り、彼の著作「善き人のためのソナタ」をパラリとめくる。彼に対する感謝の意が書かれていた。そして、誇らしげに、店員に「私のための本だ」と言って、映画は終わる。

不意に涙がこぼれた。

大推薦の映画である。

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